器に新しい命を育む。

金継ぎアーティスト 大脇京子さん

美を紡ぐ人Vol 5

Profile

大脇京子 金継ぎアーティスト
おおわききょうこ
2010年から金継ぎを独学でスタートしたのち、福岡の教室で学びを深め、2014年アメリカのギャラリーにおいて金継ぎ作品の個展とデモンストレーションを成功させる。帰国後、鎌倉を中心に全国からの金継ぎの依頼を受注。各地で金継ぎの教室や漆を用いたワークショップを開催。自身も学びながら、後進の指導にあたる。

世界も注目、サステナブルな日本の伝統的修復技術金継ぎ」。

金継ぎ」は日本の伝統的な修復技術で、割れたり欠けたりした器などを生まれ変わらせるもの。 西洋の美術品修復は、傷をまったく感じさせないように修復しますが、金継ぎは継いだ部分が模様景色)となり、世界にひとつだけの器に変わります。ものをムダにしない、ものを慈しむサステナブルな取り組みとして世界からも注目されています。 人々の器への思いを伝統の技術でつなぐ金継ぎに取り組む、大脇京子さんにお話を伺います。

写真)大脇さんの金継ぎ作品。 陶器、磁器、ガラス、漆器など、継ぐ素材はさまざま。 割れ方もひとつとして同じものはない。 それだけに、金継ぎをすることで、唯一無二の作品になる。 他の人には何の価値もないかもしれないが、自分だけの思い出のある器が生まれ変わったときは感動する」。

きっかけは、白洲正子さんの本から。

金継ぎという言葉を知ったのは、白洲正子さんの本からでした。 でも、実際に見たことがなかった。 初めて金継ぎの器を見たときは衝撃でした。 素敵だなぁと思って……。自分自身、子育て真っ最中で、でも、社会に出たい、何か社会と関わっていたい。 そんな悶々とした時期でした。 ただ、自分を表現するにしても、ゼロからクリエイティブなものを生み出していくより、割れたものを修復して元の形に戻すという表現のほうが合っていると思ったんです。 お気に入りのものを大切に使っていく。 そういう考えも自分に合っていたと思います。

写真)大脇さんが金継ぎを始めるきっかけともなったカップ。 錫で仕上げてある。 時間がかかっただけに、愛着もひとしお。 今も大切に使い続けている。

偶然できた傷や割れがアートに。

当時、熊本に住んでいたんですけど、福岡に教室を見つけて通い始めました。 先生はとてもいい方で、ともかく、下地を徹底して整えるということを教わりました。 最後に金を蒔くんですけど、下地がよくないと美しく仕上がらない。 一番最初に手がけたカップは何度も下地をやり直し、金を蒔くまでに1年近くかかりました。その教室で2年くらい学んだところで、夫の仕事の関係でアメリカに行くことになったんです。 そのアメリカで、たまたま出会った日本の器やアート作品を扱うギャラリーのご夫婦が金継ぎをご存じで、金継ぎをやってるなら、ここでデモンストレーションをしたり、金継ぎの依頼を受けたり、また、作品を展示してもらえないだろうか」と言っていただいて。 そこで初めて、教えるという経験をしました。 日本人はほとんどいなかったので、なぜ、日本人が割れた器を金継ぎをするのか、もったいない」という国連のスピーチでも使われた言葉を用いてお話しすると、皆さん、とても関心を持ってくださって。でも、金継ぎをアート作品」と感じる方のほうが多かったですね。

時間とてまを惜しむことなく。 思いを込めて金継ぎをする。

本漆ほんうるし)を使った金継ぎのプロセスはとても地道で、時間がかかります。簡単にいうと、断面に生漆きうるし)と小麦粉を混ぜた麦漆むぎうるし)を塗って接合し、マスキングテープなどでしっかり固定し、10日から2週間硬化させます。 さらに、生漆と砥の粉とのこ)、水を合わせたペースト錆漆さびうるし)で小さな欠けを埋めて、2〜3日硬化させます。 カリッと固まったところで、耐水ペーパーで表面が滑らかになるよう研いでいきます。 そのあと、素地に漆を塗り、2〜4日乾燥させたら、耐水ペーパーで研ぐ→漆を塗るという工程を繰り返し、表面の凸凹がなくなるまで整えます。表面がムラなく滑らかになったら、最後の仕上げにかかります。 金の発色をよくするために赤色の漆、銀の場合は黒漆などを丁寧に塗り、20〜30分ほど漆を落ち着かせてから、金粉を蒔いていきます。 ここまでのプロセスで3週間から1ヶ月ぐらい、長い場合は半年から1年ほどかかります。 うまくいかなくても大丈夫。 ゆっくり気長に続けます。

写真)金継ぎは割れた器を漆でしっかり接合することから始まる。 器への思いが深い分だけ、ゆっくり時間をかさねて。

伝統の金継ぎを次の世代へ。 最近、娘も金継ぎを。

そもそも漆を用いて接着したり、補強したりする技術は縄文の昔から行われてきたこと。 その継ぎ目に金をあしらうようになったのは、茶の湯文化が発展した安土桃山時代頃からといわれています。 偶然できた割れや欠けを元の姿に修復することで生まれる表情に、なんともいえない美や情緒を見出すというのは日本文化ならでは。 生徒さんやご依頼くださる方は、高価なものだからというより、思い出がこもった愛着のあるものだから、あるいは代々伝わってきたものだから大切にしたい、末長く使い続けたいという方が多いです。 金継ぎには、ものの命を尊重し、その歴史を次代へとつなぐ役目があると思います。 そこに自分の使命もあるのではと。金継ぎといっても、いろいろな方法があります。 最近では、合成接着剤を使って、短期間で仕上げる方法もありますが、私は性格的に伝統的な方法が合っていると思っています。最近、娘が金継ぎを始めました。 教室にも親子で通ってくださる方も増えています。 不器用だから私にはムリと思わず、ぜひチャレンジしていただきたい。 壊れた器が金継ぎによって新たな魅力が現れるように、金継ぎにトライすることで、自身も心豊かに輝けると信じて……。

写真)伝統的な金継ぎも、現在では金粉の金だけには止まらない。 大脇さんのみずみずしい感性で、現代的な作品が続々と生み出されている。

大脇京子さん、スキンケアどうしてます?

最後に、大脇さんのスキンケアについて聞いてみました。 3人のお子さんを育てながら、金継ぎを始めた大脇京子さん。 日々充実しているせいか、お肌はきめこまやか。 ハリがあります。 美白のためにサクラエを使ってみたいと思う。 金継ぎと同じく、続けることが大切ですね」とのことでした。

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取材日: 2024年7月23日